2007/11/18

無題

ずいぶん前に「ギャンブルの心理学:攻略法と必勝法」というエントリーで、どうして「パチンコや競馬には必勝法がある」と思い込まされている人たちがなぜこれほどたくさんいるのかについての考察を書いたが、今回は本当の必勝法の話。それも実際にそれをビジネスにしている会社でしばらく働いていたMBAのクラスメートから聞いた話なので、かなり信頼できる。

 ビジネスモデルは至ってシンプル。「カジノが提供するJackpot付きのスロットマシンでの$1の投資に対する期待値が$1以上になったところで人を送り込んでマシンを占領し、Jackpotが出るまでスロットマシンをまわし続けること」である。

 「Jackpot付きのスロットマシン」とは、数台〜十数台のスロットマシンをつなぎ、それぞれのマシンからの売り上げの3〜5%を Jackpotに貯めておき、最初にJackpot(特定の数字の組み合わせ)を出したスロットマシンにそのお金を全部払うという仕組み。たまたましばらくJackpotがどのマシンでもでなかったりすると、10万ドルとかのお金が溜まることもある。

 カジノが提供するギャンブルは、長く遊べばかならずカジノが儲かる様に出来ている。スロットマシンでも、ルーレットでも、ブラックジャックでもそれは同じで、$1を投資した時の期待値は原則として$1以下(たとえば97セント)になるように作られている。そのため、一人のギャンブラーを見た時には儲けたり損したりしているのだが、ギャンブラー全員を合わせたら必ずカジノ側が儲かるようにできている。

 フロリダにあるこの会社が目をつけたのは、Jackpot付きのスロットマシンだけに関して言えば、Jackpotに十分にお金が貯まった時に、その期待値が$1をわずかだが上回る瞬間があること。ただし、そんな状態にはなかなかならないので、一個人がそれだけを目指してギャンブルをすることは基本的に不可能。

 そこでこの会社は、低賃金で従業員(主に学生)を30人ほど雇い、携帯電話を渡してフロリダの14カ所のカジノに文字通り「24時間の張り込み」をさせる。そして、どこかのカジノでこの「期待値が$1を上回った状況」が起こると本部経由で全員に連絡が入り、全員がそのカジノに集合してその Jackpotに繋がったスロットマシンすべてを占領してJackpotが出るまでひたすらスロットマシンをまわす。そして、Jackpotが出たらそこでプレーをやめ、ふたたび別々のカジノにちらばって「張り込みモード」に戻る。

 このシンプルなビジネスモデルで、この会社は3年間に300万ドルの元手を、2000万ドルにまで増やしたそうである(それもちゃんと従業員に給料とボーナスを払い、税金も払った後での話)。

 このビジネスモデルがうまく行った理由は、カジノからお金をかすめ取っているのではない点につきる。カジノとしては、この会社がやっていることは十分承知しながらも、直接の被害を受けるわけではないので黙認していたという(厳密には、他のギャンブラーからかすめ取っていることになる)。

 テラ銭がやたらと高い日本のギャンブル(競馬、競輪、パチンコ、宝くじなど)ではこんな仕組みは難しいだろうが、テラ銭がわずか2〜3%の米国のカジノでは、Jackpotのような仕組みの導入のおかげで、こんな「隙間産業」が成り立つのだ。

 ちなみに、最近はこの業界も競争相手が増え、Jackpotに繋がったすべてのスロットマシンの席を全部占領することが難しくなり、あまり儲からないようになってしまったそうである。「マーケットの効率化の法則」(=儲かる産業には競争相手が集まり、いつかは他の産業と同じくらいの利益率に落ち着く、という法則)は、こんなところでもちゃんと働いているようだ。
http://satoshi.blogs.com/life/2007/11/post-6.html

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