2007/12/24

JAPAN MAIL MEDIAより。

"父の絵の個展で福岡に来ています。
福岡市は九州第一の都市で、05年刊のわたしの小説『半島を出よ』の主要な舞台と
なりました。執筆前はもちろん、執筆中も何度も取材で訪れたので、懐かしい気持ち
になります。今回1週間滞在して、福岡はとても暮らしやすいところだと再確認しま
した。基本的に経済力さえあれば、東京と変わらない上質なライフスタイルが可能で
す。ありとあらゆるブランドショップがありますし、ホテルは快適で、インドアプー
ルやスパなどの施設も充実しています。

食事は、名物のフグや水炊き以外にもおいしいものがたくさんあって、しかも、東
京に比べて、店構えやインテリアやサービスや味が、同等かそれ以上の店でも、値段
的に割安です。それでも、タクシーの運転手や料理屋の主人に「景気はどうですか」
と聞いてみると、「決して良くない」ということでした。「わたしたち庶民はショー
トケイキさえ食べられない」と面白くないジョークを言ったタクシーの運転手もいま
した。景気は決して良くないという言葉を、あるときからずっと、あらゆるところで
聞いている気します。しかし、福岡でわたしは、この人たちは何を基準にして今の景
気が良くないと言っているのだろうと、疑問に思いました。

福岡市内のあちこちにあるデパートやショッピングモールには、中国や韓国からの
観光客が大勢いました。上海・福岡は2時間、ソウル・福岡は何と50分です。そう
いえば、中国や韓国の友人たちから、「日本は相変わらずアジアでいちばん豊かで、
暮らしやすいのに、多くの国民が、元気がなく自信を失っているように見えるのはど
うしてなのだろう」とよく聞かれます。今日より明日のほうが生活が良くなっている
はずだという思いを持っている人が少ないからだ、とわたしは答えるようにしていま
す。"
『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』

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